保健ボランティアの能力向上及び医療保険加入推進事業
対象地域
フィリピン共和国:サランガニ州マラパタン町ツヤン地区、アラベル町カワス地区、
マシム町シギル地区、
スルタンクダラト州パリンバン町バロンギス地区、
ジェネラルサントス市ティナガカン地区
背景
ミンダナオ島南部では、1960年代末のマルコス政権時代から続く内戦による避難民や、少数派モロ民族への差別のために、社会・経済的に最下層に属する人々が多く、妊産婦や乳幼児の死亡率も高い。実施団体は、1996年よりミンダナオ島南部の先住民族に対して医療・衛生や教育、農村開発、女性自立支援等の分野で支援活動を行ってきた。
本事業の対象地域の多くでは、実施団体が現地カウンターパート「パササンバオ総合医療サービス(PIHS)」とともに数年間にわたり保健ボランティアの育成、鍼灸・ハーブ薬などの東洋医療技術などを活用した事業を実施してきた。しかし、世界的な不況の影響もあり、育成した保健ボランティアやスタッフが生活苦で村を離れてしまったため、改めて代替医療研修を実施し、新ボランティアの育成、地域医療所の機能回復、保健組合の活性化を図ることが必要となっている。
また、従来行ってきた保健ボランティアの育成や代替医療普及によって基礎疾患への対応はある程度改善されたものの、入院や手術を要する疾患に関しては、いまだ対応が不十分である。実施団体では、重篤な患者の救済には医療保険への加入推進が重要と考え、初期保険料や加入手続きの支援、継続払込の指導を行う。
目的
@ 対象地域住民の病気予防と疾患の早期発見・治療による生活の質向上
A 死亡リスクの高い乳幼児、妊産婦などの救済
B 医療機関に頼らず基礎疾患の診療に対応できる保健組合・地域医療所の機能向上
C 東洋医療(鍼灸・指圧・ハーブ薬活用等)の技能向上・普及による重症化の予防
D 住民による健康な村づくりシステム維持のための自主財源創出のノウハウの共有
D 入院手術を必要とする患者の救済策となる医療保険の加入促進
実施した活動
@ 保健ボランティアを対象とした研修の実施(延べ大人179人、子ども113人が参加*)
- ハーブ薬製造法を含む東洋医療の研修(計4回)
- ファシリテーター研修(計3回)
- 栄養研修(計3回)
*当初は保健ボランティアだけを対象とする予定だったが、中央研修所以外の会場でも実施され、ファシリテーター研修には関心の高い各地区ヘルス組合員が、栄養研修には母親と子どもが参加した。
A 各村内での研修(計4村、延べ232人が参加)
<内容>
東洋医療の基礎知識と技術(計3回)、応急手当(計3回)、
乳幼児の基礎疾患の知識と処置法(計3回)、新生児の健康(計4回)
B 巡回診療の実施(計3村で3回ずつ、延べ625人を診療
血圧測定、風邪、胃腸炎対応などの一般的な診療の他、男児対象割礼
や子宮がん検診なども行った。
C 医療保険の加入推進
保健ボランティア15名と各村から30名を加えた合計45名に対して、当初3ヶ月分の
医療保険料及び加入手続きの支援と、対象者の継続払込の指導を行った。
成果
乳がん検診の結果、がん患者はいなかったが、各種の性感染症患者を早期発見することができた。これらの感染症は、不衛生な環境、多産、栄養不良による免疫力低下などが原因と考えられる。
医療保険の加入では、当初予定の45人全員に保険証が交付された。また、各地区の保健ボランティアの活躍で、バランガイ政府または住民組合から保険料の補助金を受けられることになり、引き続き被保険者資格を継続できることとなった。