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・ 山岳民族の子どもたちへの識字教育プロジェクト(2008年度、2009年度、2010年度)
(対象地域:インド、オリッサ州)

(特活)草の根援助運動
武中秀允さん(担当スタッフ)
  • -インドへの支援を始められたきっかけについて教えてください。

現地から届いた一通の手紙がきっかけだった

草の根援助運動(英語名称:People To People Aid 略称:P2AID)では1990年の団体設立直後から、フィリピンやインドネシアで現地の団体への協力活動を開始し、当団体の英語版のパンフレットを作成して活動地などで配布していました。90年当時、インドでは活動していませんでしたが、94年、「ニューホープ」というインドのNGOからオリッサ州南部ラヤガダ地区ムニグダの少数山岳民族「ドンゴリア・コンド」の人々への支援を依頼する手紙が届きました。私たちはその団体を知らなかったので、インドの関係者や国際NGOに聞いたところ、その団体についての評価が肯定的であったので、95年に2人のスタッフを現地に派遣し、調査を行いました。その訪問調査で、私たちは同民族の人々の虐げられた生活状況を見て、支援を必要としているということが分かりました。そして、代表者エリアーザ・ローズ氏に熱意があったこと、データに基づいた記録をしていたことから、現地NGO「ニューホープ」が、しっかりとした団体であると確信し、96年からニューホープと協力して同民族の人々の支援を開始しました。

ニューホープの活動

ニューホープの本部は、オリッサ州南部のラヤガダ県ムニグダ地区にあり、もともとは障がいを持つ人々、特にハンセン病や白内障患者のための病院を運営していました。オリッサ州では有名な病院施設で、州から医師が来て手術をし、看護師が寮母として働いていました。現在では、ハンセン病の患者数が減少していることもあり、ニューホープでは主に、緑内障・白内障の患者、孤児、都市貧困家庭の子どものための施設を運営しています。こうしたなか、代表のローズ氏が同民族の人々の貧しく、不衛生な生活環境を見て、社会改革の必要性を感じ、支援活動を始めました。

  • - 少数山岳民族「ドンゴリア・コンド」の人々の生活状況について教えてください。

オリッサ・アンドラプラディッシュ両州の山岳地帯には約100万人が、うちムニグダ地区の山岳地帯には約5千人が住んでいます。

主な生計手段は、焼き畑農業でアワやヒエ(雑穀)を栽培しています。バナナやパイナップルなどの果物や、最近ではサツマイモなどの野菜も栽培していますが、育ちはよくありません。州政府から配分された土地に土間でワラを敷いた簡素な住居に暮らしています。農地については、各村で各世帯が利用する場所を決めています。


  • - 貴団体ではどのような活動を始められたのですか。

まずは保健衛生の改善から

はじめの事業は、96年に16ヶ村で実施した「保健衛生事業」です。出産キットや石けん、爪切りセットなどを配布したり、(井戸はありましたが水が出なかったため)川の水をろ過して飲料水とする方法を教えたりしました。この16ヶ村は、今では私たちの団体の名称を取って、「P2村」と呼ばれています。


次に字が読めるようになるために

4年後の2000年、この16ヶ村の「P2村」での活動の様子を聞いて、支援要請をしてきた18ヶ村で、州の公用語「オリア語」と簡単な算数を教える「識字教育事業」を開始しました。同民族の人々の母語は「クイ語」(話し言葉を記述しない無文字)で、当時、多くの人たちがオリア語を話すことができませんでした。また、数の概念もないため、市場での売買に支障をきたしたり、値段をごまかされたりするなどのトラブルも起きていました。そこで、この事業では市場で他のインド人と平等な立場で交渉でき、堂々と正規料金で物を買うことができるようになることを目標としました。インドでは、山岳少数民族には、コメや油を安価(通常価格の3分の2程度)で購入することができる優遇措置がありますが、同民族の人々はそのような優遇措置について知らなかったため、オリア語を学んで自らの権利を知り、優遇措置を受けることができる指定部族であることを示す証明書を読めるようになってほしいと考えました。

この事業では、村で識字教室が開催できるように、各村から小学校に通った経験のある青年を選び、代理教員候補生としてトレーニングを実施しました。この事業は、神奈川高等学校教職員組合の20周年記念事業として支援されたため、この識字教育事業の実施地18ヶ村は「K村」と名付けられました。


  • - 今井記念海外協力基金の助成を受けて行った取り組みについて教えてください。

識字教育活動を発展

P2村(16ヶ村)では96年から、K村(18ヶ村)では2000年から活動を開始しましたが、大人の識字率は多少、向上したものの、子どもの識字率は10%以下に留まっていました。そこで、子どもの識字教育活動の充実化を図るため、08年に今井基金の助成を申請し、助成を受けることができました。

この事業では、従来の方法を応用し、地元青年の代理教員養成トレーニングを年に2回、約7日間の集中コースと、月に2〜3回、フォローアップを実施しました。日雇いの仕事や農業で生計を立てている代理教員候補生にとって、仕事を休んでトレーニングに参加することは難しかったため、お米や食費の補助をすることで、参加意欲を高めるよう努力しました。また、町の学校に視察に行き、他の教育方法を実際に見る機会をもちました。

こうしてトレーニングを受けた代理教員は、各出身村で3〜15歳の子どもを対象に識字教室を開設しました。また、代理教員は親を訪問し、村のリーダーと会合を行うことで、識字率の向上だけでなく、教育の重要性を啓蒙して、公立学校への就学率を増やす努力をしました。

3年間、今井基金から助成を受けたこの事業で、「P2村」16ヶ村、「K村」18ヶ村の合計34村から2名ずつ、計68人の代理教員を育てることができました。この識字教室は毎週3回、主に夕方に継続的に実施され、代理教員の意欲の高まりとともに、親や村のリーダーの会合への参加も活発となりました。


  • - 活動によって変わったことを教えてください。

村人たちが教育の大切さに気付いた

村人たちが教育の重要性に気が付いたことが最も大きな変化です。今ではインフォーマル教育80%、公立学校への就学率は20%、計100%となりました。とくに公立学校での、女の子の就学率が増えたことは大きな喜びです。本事業の開始当初、5、6歳から15歳の子どもの識字率は10%程度でしたが、今はほぼ100%となりました。

公立学校は遠くにあるため、通学のために子どもたちは寄宿舎に寝泊まりしなければなりません。ですから、子どもを労働力として期待する親への説得が、最も大変でした。しかし今では、親たちの意識が変わり、子どもたちが小学校、中学校に進学し、自分たちの夢や希望を実現できるようになることの大切さを理解しています。


子どもたちが将来の夢を語るようになった

子どもたちは将来の夢を語るようになりました。大学に行っている若者が村に帰ると、大学での生活や体験について話し、他の子どもや親も興味を示すようになりました。また、母親たちが独自にモニタリング・グループを作り、代理教員に要望を出すようになりました。母親たちが子どもの教育に熱心に取り組むようになったあらわれです。


予防接種の接種率が向上した

保健面でも変化がありました。以前は、予防接種の日程が張り出されても、字が読めないため理解できず、機会を逃していたため、96年の活動開始当時の接種率は30%程度で、感染症などで乳幼児が死亡することが度々ありました。識字率が向上し、情報が共有されるようになった現在では、接種率が98%となりました。


自らの文化に誇りを持つようになった

文化を大切にしようという動きが出てきたことも変化の1つです。同民族には口承文芸がありますが、記録されていません。識字教室などの活動を通じて、村の人々の意識が高まり、自らの文化を振り返るようになり、誇りを持てるようになりました。

96年から活動を始め、基盤が出来たところで、今井基金から助成をいただいたことで、ドンゴリア・コンドの人々の士気を高め、活動を一層、発展させる活動を行うことができました。目標を達成することができ、感謝しています。


  • - 目標が達成した今、今後はどのように活動したいとお考えですか。現在、村が抱える課題を教えてください。

環境や住民に影響を与えるボーキサイトの採掘の危機

子どもの栄養失調がまだ多いこと、定住して農業を行うことの難しさに加え、現在抱えている大きな問題は、P2村、K村の土地の約半分でボーキサイト(アルミニウムの原料)が取れることが分かり、開発の危機にさらされていることです。

ムニグダ地区にはベダンタ社の精錬所(ボーキサイト)があり、これまで他州からボーキサイトを入手していましたが、同地区に埋蔵しているボーキサイトを採掘することを望んでいます。インドには「村の総会での決議が優先されるべきである」と憲法で規定された少数民族の優遇制度があり、最高裁では当該地域での採掘は非合法であるとの判決が出されています。また、会社側が満たさなければならない森林保護法に基づいた条件などがあります。しかし、利益の一部は政府に入るため、州政府は賛成しています。次回の州議会選挙の結果次第で、採掘が実施されるか否かが決まるでしょう。水を大量に使う採掘が行われると、汚染水が流れだして公害が発生し、ドンゴリア・コンドの人々は土地を追われることが予想されています。州内ではこのボーキサイト採掘事業に絡み、同社への焼き討ちなどの暴力行為が起こっています。

住民の間では賛否両論があり、現地NGOニューホープでは、住民の意見をまとめているところです。当団体としては、状況を見守り、必要な協力をしていきたいと考えています。

  • - どうもありがとうございました。