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災害に関するアジア諸国共同トレーニング(2011年度)

国際医学生連盟 日本(IFMSA-Japan)
2011年度ACTION Project代表 百武 美沙さん
  • -国際医学生連盟 日本(IFMSA-Japan)について教えてください。

国際医学生連盟(International Federation of Medical Students' Associations(以下、IFMSA))は、1951年にヨーロッパで設立された国際NGOです。2011年11月時点で、96の国と地域から106団体が加盟し、120万人以上の医学生を代表しています。
1961年にIFMSAに加盟した日本支部は、2000年頃に体制を一新し、名称を「国際医学生連盟 日本」(以下、IFMSA-Japan)として現在に至ります。2011年11 月現在、団体会員51校、個人会員約500名が参加しています。


  • -今井基金からの助成を受けたACTION Projectの活動について教えてください。

アジア・太平洋各国の仲間と災害医療トレーニングを毎年開催

ACTION ProjectはIFMSAの活動の一つで、災害医療の次世代リーダー育成を目的とした国境を越えたプロジェクトです。
2004年の活動開始以来、年に一度、災害に関するテーマを取り上げ、アジア・太平洋地域の国々で約1週間のトレーニングを行っています。開催国やテーマは、プロジェクトに参加する各国のスタッフの合議で決定されます。過去には、「災害時の病院管理」(2010年、フィリピン)や「感染症」(2009年、タイ)などがトレーニング・テーマとして取り上げられました。今井基金からの助成を受けた2011年度は、インドネシアで「地震」をテーマにしたトレーニングを行いました。
トレーニングの企画、参加者の募集、当日のファシリテーション、資金調達などは、日本やその他のアジア・太平洋地域の国々の医学生スタッフが担います。日本のスタッフは10人ぐらいで、活動国の中で最も多いです。全国の大学に散らばっているため、スタッフ間の意見交換は、主にスカイプやメーリングリスト、フェイスブックなどのインターネット・ツールを活用して意思疎通をはかっています。

海外の医学生との交流が最大の魅力

スタッフやトレーニング参加者としてACTION Projectに関わる学生の多くは、海外の医学生と意見交換をする機会を求めています。実際に、参加した学生からは、「自国と異なる環境で学ぶ学生たちと意見を交わすことで、視野が広がった」というフィードバックが多く寄せられています。
また、参加者の中には、トレーニングを通じてアジア・太平洋地域の医学生たちと親交を深め、アジア地域の大学への短期留学を決めたメンバーがいました。このように、トレーニングでの出会いは、その後の活動の場を広げ、メンバーに様々な影響を与えています。

「救急医療」と「災害医療」は異なるもの

海外の医学生との交流の他に、災害医療の分野に関心を持つスタッフ・参加者も多くいます。
一般の大学の医学部では、災害医療について専門的に学習する機会が多くありません。これは、日本に限ったことではなく、アジアの他の医学部でも同じようです。
救急医療については学びますが、本来、救急医療と災害医療は根本的に異なるものです。どちらも緊急的な処置が必要であることは同じですが、救急医療に比べ災害医療は、需要(処置が必要な患者の数)に対して供給(医師や薬などの数)が圧倒的に少ない状況で行われます。そのため、患者の病状の緊急性を判断し、重症の患者から治療を行うトリアージや、現場の医療体制の整備などが重要となります。
災害が発生した際に、現場に居合わせた医師が災害医療に関する知識を持ち合わせていなければ、それまでの経験をもとに個人の裁量で対応することになります。国際基準にのっとっていない方法では、他の医師が加わった時に、現場での判断基準がわからないという問題が生じます。またそもそも、自分の家族の安否がわからない状況で医療活動を続けられる医師は多くありません。災害医療について学び、実践した経験が少しでもあれば、困難な状況の中でも対応しようという気持ちが起こるのではないか、と期待しています。


  • -とても重要な役割を果たしているのですね。2011年度のトレーニングについて詳しく教えてください。

インドネシアで「地震」をテーマに開催

2011年度のトレーニングは、8月15日から21日までの7日間、インドネシアで「地震」をテーマに開催されました。トレーニングへの参加者は、志望動機や英語力についての選考を経て、アジア・太平洋地域の8カ国・地域から計22人が選ばれました(内訳:日本13人、インドネシア7人、台湾4人、中国2人、香港1人、マレーシア1人、フィリピン1人、タイ1人)。このほかに、開催国であるインドネシアの現地スタッフ45人と、その他の海外スタッフ8人(うち日本人6人)が参加しました。
今回のトレーニングでは、次の4点を目標に掲げました。
・地震についての基礎的な知識をアジア・太平洋地域の医学生が身につける
・実際に災害が起こった時に、現地国はどのような対応をすべきか、海外からはどのような支援が可能かについて話し合う
・BLS(Basic Life Support、一次救命処置)についての実践的知識・技術を身に付ける
・英語で活発に意見交換し、自らの国について発信するとともに、他国の意見を吸収することで、国際的なリーダーシップを身に付ける


災害発生時の備え、感染症対策、医療ミスなど専門家による英語講義

トレーニングでは、開催国(インドネシア)内外の災害医療の専門家による講義が全て英語で行われました。講義の内容は、地震発生時の災害管理、過去の災害に学ぶ救急医療の備え、避難所の管理、災害時の医療ミス、地震後の感染症対策などです。毎回、小グループに分かれてのセッションやグループ・ディスカッションなど参加者同士の話し合いの時間を設け、活発な意見交換を促しました。
また、緊急時に特殊な器具や医薬品を用いず救命処置行うスキルを身に付けるためのBLSトレーニング・ワークショップを行いました。トレーニング終了後、受講した全員が筆記・実技試験に合格し、国際的なBLSのスキルを取得したことを証明する証明書を受け取りました。


  • -東日本大震災発生から5ヶ月後に「地震」をテーマとしたトレーニングを開催されたわけですが、何か影響はありましたでしょうか。

東日本大震災での医療活動について発表−「被災地で何が起こっているか」を伝えたい

インドネシアで「地震」をテーマにトレーニングを開催することは前年度から決まっていましたので、直接的な影響はありませんでした。しかし、私たち日本からの参加者は、海外の学生にも東日本大震災の被災地で何が起こっているのかを伝えたいと考え、「Country Presentation」という、各国の参加者が自国の災害や災害医療の状況について発表する場で、東日本大震災について話すことにしました。
事前に、各参加者が被災地で医療活動を行った大学病院の医療チームや医師などの講演会などに出席し、情報を集めました。私の大学(慶応大学)では、トレーニングの事前勉強会の一環として、被災地で活動した医師に講義をしていただきました。こうして日本で色々な方から伺ったお話を集約し、被災地でどのような医療活動が行われ、どのような結果が生じたのかを、発表しました。
他にも、過去の災害事例をもとにディスカッションをする講義などで、東日本大震災も取り上げられました。

災害が起こった時、医学生は何ができるのか

東日本大震災は、海外の医学生にとっても関心の高い出来事だったようです。震災直後には、ACTION Projectを通じて知り合った海外の医学生から、安否を確認する連絡や、支援したいという気持ちを伝える連絡が多く寄せられました。
トレーニング期間中には、「災害発生時、医学生は何ができるのか」を話し合う場も持ちました。医学生の立場では、医療行為を行うことはできませんが、医師の補助や緊急時の応急措置などは行うことができます。また、仮設住宅での健康状態の聞き取り調査などは医学的な知識を活用できる支援の方法のひとつだと思います。
一方で、話し合いの中では、「医学生という立場にとらわれず、被災地で必要とされていることなら力仕事でも何でもやるという気持ちでいたほうがよい」という意見も多く出されました。


  • -トレーニングを開催されるにあたり、困難なことはありましたか。

最大の課題は資金調達

毎年のトレーニング開催にあたっては、開催国のグループと、スタッフが多く経済規模も大きい日本で寄付を募ります。しかし、2011年度は震災の影響で、日本の民間企業からの寄付がゼロとなってしまいました。最終的には、今井基金から頂いた助成金と、開催国インドネシアで集めた寄付、他に前年度からの繰越金や参加費などを集め、ようやく開催までこぎつけることができました。
今後は、一部の国に頼ることなく、各国でバランスよく資金を調達する体制を作ることが課題だと思っています。とはいえ、活動国の中で一番スタッフが多い日本でも、資金調達を担当するスタッフが不足しているという現状がありますので、まずは各国で資金を調達できるスタッフを増やすことが必要だと思います。さらに、学生の資金調達のスキルを高めていく勉強会などの取り組みも、日本から各国に広げていきたいと思っています。

「英語」で意思を伝えられるようになること

海外のスタッフや参加者とのコミュニケーションの難しさも感じます。ACTION Projectはアジア・太平洋地域を対象としているため、トレーニングに関わる人の多くは、英語が母国語ではありません。英語で伝えたいことをしっかりと説明できない参加者もいるため、聞く側が英語に慣れていてもコミュニケーションがうまくいかないことがあります。日本では、そのような状況を改善しようと、事前に英語でのプレゼンテーションやファシリテーションについて学ぶ勉強会を設けました。
一方で、英語を母国語としない人が多いというのは、チャンスでもあると思います。英語に苦手意識がある中で、英語が母国語の人々の中に飛び込むのは大変勇気のいることですが、同じように英語を第二外国語として学び、話す人たちとの会話を通して、英語でのコミュニケーション能力を高めていければよいと思います。


  • -最後に、ACTION Projectを今後どのように広げていきたいですか。

トレーニング終了後、それぞれの参加者が将来にどのように活かすか

まず、ACTION Projectが始まってから8年が経過し、卒業生が社会に出て活躍し始めているので、ACTION Projectが先輩方のキャリアにどのように影響したかを追跡したいと考えています。
ACTION Projectのトレーニングでは、トレーニング期間の過ごし方ももちろんですが、学びや気づきをその後どのように日々の勉強や将来に活かしていくかも重要です。卒業生の中には、海外の医学生との出会いなどを通して国際保健への関心を強め、現在はJICAの国際保健プログラムや、厚生労働省で医系技官として働いている人もいます。私自身も、ACTION Projectで国際会議や海外の方々と意見交換の経験や知識を活かせるフィールドで働きたいと考えています。

トレーニングでの学びを、広く他の医学生へ

今後は、トレーニングで学んだことを積極的に発信し、他の医学生にも広く知ってもらいたいと考えています。昨年からは、トレーニングなどの活動の内容をリーフレットにまとめ、医学生への配布を始めました。また、2012年度中には、IFMSAのアジア・太平洋地域会議やAMSA(アジア医学生連盟)という学生団体で災害医療に関するワークショップを行うことが決まっています。
このように、リーフレットの発行や大きな会議でのワークショップの提供を積極的に行っていくことで、トレーニングで学んだ知識を医学生の間で広げていく取り組みを、今後も展開していきたいと思います。

  • - どうもありがとうございました。