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フィリピン都市部に暮らす貧困家庭の子どものための奨学生事業(2005・2006年度)

特定非営利活動法人 ACTION 並木麻利子さん(現地調整員)
  • - ACTIONが活動しているフィリピン・オロンガポ市はどんな地域ですか?

ここは米海軍基地のある町として発展してきました。常にオロンガポ市には職を求めて人々が集まってきており、特に1991年のピナトゥボ山の噴火で非常に多くの人々が流入してきました。彼らの多くが貧困層であり、スクワッター地区(不法占拠地区)に住んでいます。
1990年代初期、ここには家族を支えるために路上で働いたり、親を失いストリートチルドレンとして生活しなくてはならない子どもたちが約3,000人いたと言われています。その当時、 ACTIONは、ここで主に目と耳が不自由な子どもたちの施設ニニョスパグアサセンター、そしてオロンガポ市から少し離れたところにある児童擁護施設ジャ イラホームを支援していました。

  • - ACTIONがオロンガポ市の貧困家庭の子どもを支援し始めたきっかけは何ですか?

オロンガポ市内では年々ストリートチルドレンが増え続けてきました。そんな状況の中で、少しでも多くの子どもたちが、施設や路上で生活することなく家族や地域の中で成長できるようになるためには、今までのACTIONの支援では十分でないと考えるようになりました。ストリートチルドレンとして生活をしてきた子どもたちを支援するためには、保護施設に収容するだけでは十分ではありません。子どもたち自身の意識のみならず、親の意識も変えるように多角的な活動が必要なのです。

2004年、ACTIONはTATAG(Tayo Ang Tinig At Gabay, Inc.)という、オロンガポ市のストリートチルドレンのために活動をしている団体に出会いました。TATAGは、1994年から教育を中心にストリート チルドレンと彼らの家族や地域に対する包括的な活動を多くの貧困地域で実施していました。しかし、TATAGの財政状態には限界があり、増え続けるスト リートチルドレンに対応しきれない状況でした。そこで、路上で働かなければならない子どもを増やさないためにも、ACTIONはTATAGと共に貧困家庭の子どもたちを支援することに決めたのです。

  • - 学校へ通えない子どもたちの支援のために、今井基金への申請を行うまで、どのような取り組みをしてきたのですか?

TATAGと一緒に活動するにあたって、まず、地域のニーズについて話し合いました。そこではっきりしてきたのは、義務教育(小学校6年間、高校4年間の計10年間)の授業料は基本的に無料であるにもかかわらず、学校にいけない子どもたちがたくさんいることでした。学校で学ぶためには制服や靴・カバン、交通費や昼食代が必要です。さらに、学校から別途、PTA会費、課題を行う際の費用、テストの紙代、施設の補修費など、さまざまな名目で現金が請求されます。 授業料が無料でも、学校に通 うことに付随するさまざまな費用を貧しい家庭の子ども払えず、学校に行くことができません。

この問題を解決するために、他のNGOと共に教育省に働きかけ、オロンガポ市の公立学校に通う、NGOから支援を受けている貧困家庭の子どもは最低限のお金を払えば学校に通 うことができるという同意をオロンガポ市から取り付けました。 しかし、実はその最低限のお金さえも支払えなく、働かなくてはならない子どもたちがたくさんいるのです。その子どもたちのために、今井基金に奨学金の支援協力を申請しました。

  • - 申請された奨学生事業の最終目標は何ですか?

最終目標は、去年から奨学金支援をしている子どもたちが高校まで卒業し、最終的には職に就くことです。去年からの奨学生が高校卒業するまでですから、去年小学校1年生だった子どもに関しては、あと9年、支援し続けなければなりません。奨学金支援には長い時間がかかります。

ACTIONとしては、今井基金の助成が終わったとしても、ワークキャンプで入ってくる資金などを使って、規模がどんなに小さくなっても目標を達成するまでこの事業を続けていきたいという気持ちでやっています。 少しでも多くの子どもたちが路上やジャイラホームのような施設ではなく、家庭から学校に通えるような環境に置かれることが重要です。ですから単に奨学金を出すということだけでなく、家族、地域を巻き込んだ包括的アプローチを取っています。

  • - 事業実施中、予定通りに進まないことなどありましたか?

実は出生証明書が登録されていないために入学できない子どもたちがいます。彼らのために、証明書の登録費や手続きの支援をすることを予定していました。また、経済的な理由などで学校を退学せざるを得なかったり、就学年齢に達しても未就学のままの子どもたちに対し、飛び級試験を受けるための支援を実施することを予定していました。しかし両方ともタイミングを逃し、実態調査に遅れが出ています。

出生証明書のない子どもについては、現在把握しているだけでも15名いますが、実は、そのような子どもは路上を生活の場にしていることが多いため、途中で消息が分からなくなってしまうことがあります。なかなか簡単に作業は進みません。飛び級試験に関しては、今年(2006年)9月に実施される予定なので、それに合わせて手続きを行う予定です。

  • - 親や地域を巻き込んだ包括的なアプローチをとっているとのことですが、現地の人々をどのように事業に取り込んでいますか?

奨学生のいる12の貧困地域(今年に入って16地域に拡大)では、母親組織を作りました。そこでは自分たちや子どもたちの抱える問題とその改善策を話し合うなど、自主的に活動に関われるようになっています。この母親組織のメンバーが非常に積極的に動いてくれています。例えば、母親組織の代表、TATAGのスタッフ、当会調整員で、学校のモニタリングをし、子どもたちの学習状況や活動状況をチェックするなどして、先生とのコミュニケーションを図っています。

特に、仕事をしている子どもたちは、学校に遅れたり休んだりすることもありますが、恥ずかしいという気持ちから先生にうまく理由を話せず、学校にだんだんと来なくなることが多いのです。このモニタリングによって、先生も子どもたちがなぜ学校に遅れたのか理解するようになりました。母親組織は地域で細かく役職が振 り分けられているので、母親という役割のほかに自分の役職ができたことで「組織の一員」という責任感や結束感が出てきて、お母さんたちの目が、本当にキラキラと輝いています。

  • - 奨学金支援事業でどんな変化がありましたか?

「学校に行きたい!」。そう強く願っていた子どもたちですから、奨学金をもらって学校にいけることを心から喜んでいます。私たちは、Child-to- Child(子どもから子どもへ)のアプローチを大切にしているので、お母さんたちと同様に、子どもたちの組織も作りました。その組織では、元ストリート チルドレンだった青年がストリート・エデュケーター(路上での教育担当者)として訓練を受け、子どもたちの良きお兄さんやお姉さんとして、時には頼れる先生として活躍しています。今井基金からの助成によって、エデュケーターたちの数も増え、活動範囲も広がりました。また、この事業で、同じように奨学金をも らっている子どもたちの間に仲間意識が芽生え、困ったことがあると子どもたち同士で何でも話し合える環境になったことも大きな変化の一つです。

  • - この事業で奨学金を受けた子どもたちは、どんなふうに成長したのでしょうか。

去年の奨学生500名のうち50名が高校を卒業しましたが、卒業後にストリート・エデュケーターとして活躍する例が多くみられます。例えば、現在、スト リート・エデュケーターの一人であるロイは、毎週末、朝早く起きて自ら市場でプッシュカート(お客さんの荷物をカートで運ぶ仕事)をして、どの子どもたちがプッシュカートをして働いているのかを実態調査しています。「こうやって自分も働くことで、子どもたちの気持ちも知りたい」というのが彼の考えです。毎週市場で一緒に働くうちに、他の“プッシュカート・ボーイズ”と友達もしくは兄弟のような仲になり、徐々に学校や職業訓練に行くことを説得しています。実際に、13歳の子どもが兄のような存在のロイと話すうちに、学校に行きたいという気持ちを持つようになったり、ロイと同じような年代の青年たちが職業訓練に参加したいと動機付けられたりして、彼のエデュケーターとしての成長はめざましいものです。

  • - どうもありがとうございました。