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モンゴルの公立学校に図書室をつくろう!(2013年度)

特定非営利活動法人フリー・ザ・チルドレン・ジャパン
代表理事 中島早苗さん、事業担当 河本千夏さん
  • -モンゴルで活動を始めたきっかけを教えてください。

 フリー・ザ・チルドレン(Free The Children)は、「子どもによる子どもへの国際協力」をスローガンに、1995年に当時12歳の少年によってカナダで設立された国際協力団体です。(特活)フリー・ザ・チルドレン・ジャパン(以下、FTCJ)は、その日本支部として1999年に活動を開始しました。

 FTCJを設立した当時、私(中島さん)は企業に勤めていましたが、私と同じように会社で働きながら、ボランティアでNGOを立ち上げ、国際協力の活動をされている方にお会いし、いろいろと情報交換をするようになりました。その方は、神奈川県で「国際交流は子どもの時から・アジアの会」(以下、アジアの会。その後解散)というNGOを立ち上げ、夏休みにモンゴル、台湾、中国、ロシアなどから招へいした子どもと日本の子ども合わせて約100人が参加する国際交流キャンプを開催する活動をされていて、私もボランティアとしてかかわっていました。このアジアの会では、国際交流活動のほかに、モンゴルで貧困解消のための自立支援にも取り組んでおり、ある時「モンゴルは非常に困難な状況にあるため、一緒に活動をしないか」とお誘いを受けました。当時、FTCJはモンゴルで活動した経験がなかったので、まずは現地調査をしようと、2006年に初めてモンゴルを訪れ、遊牧民の人々の暮らしや都市の子どもたちが置かれている状況などを視察しました。

  • -当時の支援地域の状況を教えてください。

遊牧民生活をやめて都市に移り住んだ人々
 モンゴルの都市部で、マンションに暮らしている人たちには比較的安定した収入があり、ゲル(主にモンゴル高原に住む遊牧民が使用している、伝統的な移動式住居)で生活している人々は貧しいと言われています。支援活動を始めたバヤンズルフ地区はゲルが密集している貧困地域で、以前は地方で遊牧民生活を送っていたものの、生活できなくなり、仕事を求めて都市に移住してきた人々が多く暮らしています。
 現地調査の際に、現地の行政職員と共に地区を回り、住民から話を聞きましたが、ほとんどが日雇い労働や物売りなどの不安定な低収入の仕事についており、シングルマザーの方も多くいました。モンゴルでは義務教育期間(10年間)の学校の授業料は無料ですが、家計を助けるために、中退して働く子どもも少なくありません。また、野菜不足や冬の運動不足、水不足などによって健康上の問題を抱える人々も多くいました。

  • -2008年から始められたゲル図書館の設立・運営支援について教えてください。

「本を読みたい」という子どもの声から始まった本を通じた教育支援

 現地で、子どもの置かれた状況を改善するためのアプローチを調査する中で、子どもたちからは「本を読みたい」という声が多く寄せられました。モンゴルの人口は300万人弱ですので、書籍の市場規模が小さく、本の値段が高く、種類も豊富ではないので、子どもたちが本に触れる機会が限られています。このため、図書館を設立することで、本を通じた教育支援に取り組めるのではないかと考えました。
 こうして、2008年8月に、ウランバートル市内の貧困地域・バヤンズルフ地区の第92号学校(公立学校:小学校(5年制)、中学校(4年制)、高校(3年制)の生徒約1,700人が在籍)の裏に、“ゲル図書館”を建設するに至りました。モンゴルを訪問するきっかけとなった「アジアの会」は、その時すでに10年ほどモンゴルで活動していて、図書館の設置の仕方や設置する場所、現地スタッフの雇用などに際していろいろと協力してくださいました。

日本の子どもたちも活動に積極的に参加
 先ほどもお話した通り、フリー・ザ・チルドレンでは「子どもによる子どもへの国際協力」をスローガンに、子どもが活動の主体となることを重視しているので、モンゴルでの活動にも日本の子どもたちが様々な形で関わりました。例えば、夏と冬のスタディーツアーで直接モンゴルを訪れて支援地の子どもたちと交流したり、図書館の運営費(年間40万円近く)を調達したり、紙芝居や本の寄贈をするなどして、事業に参加しました。また、夏には図書館の周辺でスポーツを楽しむ子どもたちのためにスポーツ用品を寄贈したり、週末に時折開かれていた日本語講座や図画工作の教室のための備品を送ってくれた日本の子どももいました。


ひと月に数千人の子どもが図書館を利用
 2008年8月に図書館開設式を開催し、図書館の裏にある第92号学校の子どもたちを招きました。それまで本を読む習慣がなかった子どもたちは図書館に足しげく通ってくれるようになりました。月によってばらつきがありますが、2010年の5月には、のべ3,500人以上の子どもが図書館を訪れ、32,200冊の本が読まれました。

  • -2013年度に今井基金からの助成を受けて実施した、第92号学校内に図書室をつくる活動について教えてください。

私立のゲル図書館から公立学校の図書室へ

 ゲル図書館の設立当初から、ゲルの寿命は約5年とわかっていたので、ゆくゆくは近隣の第92号学校と連携したいと考えていました。そこで、私たちFTCJのスタッフが現地訪問した際に学校側と話し合いの場をもったり、図書館を利用した子どもたちから本の感想文を集めて教師に紹介したりするなどして、学校に図書館の意義を理解してもらえるよう努めてきました。2011年頃からは、「ゲルの図書館では狭いため、学校に図書室のスペースを作り、運営をしてもらえないか」という交渉を始め、最終的には2012年に学校が図書室をつくることに合意してくれました。そこで、2013年度に今井基金の助成金をいただいて、学校に図書室を移すための書籍の準備や備品の設置に取り組みました。
 それまでゲル図書館で利用していた書籍2,000冊は「アジアの会」からお借りしていたものでしたので、学校の図書室を始めるにあたり、一から書籍を集めなければなりませんでした。そこで、日本とモンゴルの両方で書籍集めを開始しました。日本では、本を寄贈してくださる方を募り、著作権の問題がないか確認したうえで、問題がなければモンゴル語に翻訳して現地に送りました。著作権の問題が生じた場合は、古本屋で現金に換え、モンゴルでの書籍購入費用に充てました。結果、日本からは約100冊を現地に送りました。モンゴルでは、本屋を回って本を購入したり、現地の団体などから寄贈していただくなどして、1,000冊以上の本を図書室に設置することができました。
 学校からは「図書室のスペースは確保するが、本や備品は用意できない」と言われていましたので、本棚などの備品も用意しなければなりませんでした。しかし先ほどお話したように、モンゴルでは書籍の市場規模が小さいこともあってか、本棚などの値段が高く、資金調達に不安を感じました。そこで日本の子どもたちや寄付者からご協力いただき、なんとか用意することができました。

日本の子ども数百人が活動に協力
 備品購入のための資金にとどまらず、日本での書籍集め、集めた書籍の現地への輸送資金、現地での書籍購入など様々な場面で、日本の子どもたちが協力してくれました。生徒会が主導して学校全体を巻き込んで寄付を集めてくれたり、学校を超えたグループを作って書籍集めに取り組んでくれた子どももいました。学校やグループで協力してくれた子どもたちも多いので、正確な数は把握していませんが、合わせて500−600人の子どもたちが何らかの形で協力してくれたのではないでしょうか。協力してくれた子どもたちには、図書館完成後にブログや報告書で現地のようすを報告しました。

  • -図書室が完成した後の、学校や子どもたちの反応を教えてください。

 2014年3月に第92号学校内に図書室が完成し、開設式を行いました。校長先生は、学校図書室ができたことを大変喜んでくださいました。この学校では、日本語クラスがありますので、子どもたちからは「日本語に触れる機会が増えてうれしい」と言っていました。


  • -今後、どのように活動を展開したいとお考えですか。

学校による持続的な図書室運営を目指す
 学校に図書室ができたことで、利用者の数や読書数にどのような変化があるのか、子どもたちの読解力や文章力にどのような影響があるのか、などについて、今後学校と協力してモニターしていきたいと思っています。
 ゲル図書館では、FTCJが雇用したスタッフが図書室の運営をしていましたが、学校図書室に移ってからは、以前から学校で教科書や資料管理を担当していた職員が図書室も担当するようになりましたので、私たちの支援が終了した後も、子どもたちが図書室で読書を楽しめる環境が持続することを期待し、図書室の運営ルールのマニュアル化に取り組んでいます。

書籍の充実や、図書室を活用した新しい活動にも意欲
 図書室の運営主体が学校に移ったあとも、書籍の充実に協力していきたいと思っています。日本の子どもたちからも「モンゴルの子どもたちに本を届けたい」という提案があるので、支援を継続する予定です。
 また、図書室というスペースを利用して、読書以外の活動も検討しています。例えば、日本の企業などと連携して、病気予防の冊子を無料で配り、健康のための意識啓発活動を行うなどのアイデアが出ています。
 このほかにも、近隣の他の学校から図書室を設置したいという声が出ているようですので、現地の状況を調査して、対応を検討したいと思っています。


  • - どうもありがとうございました。